問い
記録媒体が同じなら、そこから取り出される結果も同じになるはずです。ところがQでは、見る人、見る順番、先に与えられた情報によって、同じ媒体が別の結果へつながるように配置されています。
ここで先に固定するのは結論ではありません。媒体の異常、観測者の入力、公開前の情報、空間への波及という四つの観点です。各作品の確認済み観察は台帳へ分けて登録し、この章では観察から言える範囲を越えて結論を補いません。
まず、同じ媒体から結果が二方向へ分かれる構造を抽象化します。媒体が原因なのか、媒体を通る条件の組み合わせが原因なのかを区別するためです。
同じ媒体/違う結果作中で触れられるのは観測者ごとの差である。再生を繰り返すことで変わるかは確認されていない。
この図から言えるのは、同じ媒体でも結果が一つに決まるとは限らない、という問いの形までです。何が結果を分けたのかは、作品ごとの本編照合を待ちます。
Cursed VideoCursed Video
この作品の記述の出典は、筆者による視聴確認です。タイムコードは未設定です。
FACT再生の構成自体は毎回同じで、途中に別々の遺影のカットが挿入される。
FACT挿入される遺影のカットの総数が、見る人によって異なる。
FACT登場人物同士が、合計の枚数が異なることに触れる場面がある。ただし議論はされず、深掘りされないまま作品が終わる。
FACT遺影のカットの切り替わりの前後で映像が乱れる。これは旧来のVHSで上書きしたときの挙動と同じ見え方である。
UNRESOLVED再生を繰り返すこと自体で内容が変わるかは、作中で確認できない。確認できるのは観測者による差だけである。
UNRESOLVED実際に上書きが行われたのかは確認できない。確認できるのは、上書き時に似た乱れが見えることまでである。
MINDSEEKER / 筆者による視聴確認
観察から実験へ:MINDSEEKER
FACTカードは5種類(縦向きの波線三本/○/☆/□/+)。正解は、山札が開かれて明示される。画面上のテキストはロシア語で、外したあとに「気を落とすことはない/この試練を通過せよ」という趣旨の表示が出る。
FACT5ラウンドを1セットとし、巻き戻してもう1セット行われた。計10回、一度も的中しなかった。外れ方は毎回はっきり違い、この回で答え続けたのは三人組のうち一人だけである。先に見ていた2名はこの回では答えていないが、自分が再生したときには巻き戻しを含めて同様に試している。
以下のMINDSEEKER記述の出典は、筆者による視聴確認です。タイムコードは未設定です。
UNRESOLVEDしかし、カードを10回すべて外したことは、それだけで異常の証拠にならない。選択肢が5種類なら、1回あたりの的中率は1/5、外れる確率は4/5である。10回すべて外れる確率は (4/5)^10 で約10.7%。外れることは安く、当てることが高い。意図的に避けている場合と無作為の場合を、この試行数では区別できない。
カードの失敗を異常の証拠にしないまま、再生をまたいだ変化へ進みます。
回答が結果を選んでいるように見えるただし作品の中では、条件を一つだけ変えた再生が一度も行われていない。この図は候補のひとつを描いたものである。
一度目で覚えたカードが二度目に再現されず、風船と女性も再生をまたいで変化します。ただし条件を一つだけ変えた再生はなく、回答が結果を選んだのか、テープ側に状態が溜まったのか、観測者側の条件なのかは決められません。
固定された一本ではない:再現実験の失敗
FACTカード課題では、一度目で覚えた内容も、二度目には当たらなかった。覚えた内容を同じ位置で再生し直して再現する試行が、作中で実際に行われ、失敗している。
INFERENCEテープの内容は、再生ごとに固定されていないように見える。これは、あらかじめ収録された一本の映像が毎回同じ内容を返すという説明と両立しない。MINDSEEKERは、同じ媒体から結果が違うという観察を、再現実験の失敗によって一段強くしている。
風船と女性:再生をまたぐ変化
FACT風船に60秒間の念を送る課題では、初回は何も起きない。巻き戻して再生すると、風船は左右に揺れながら左へ寄っていった。先に見ていた2名が巻き戻したときは、2回とも何も起きなかった。
FACT背を向ける女性に30秒間の念を送る課題では、初回は何も起きない。2回目はゆっくり左を向きかけたところでタイムアップになった。3回目は、巻き戻し終えた時点ですでに女性が完全にこちらを向いている状態から始まり、その後は何も起きない。先に見ていた2名のときは、いずれも何も起きていない。
INFERENCE風船と女性の課題では、再生をまたいで状態が持ち越されているように見える。女性が2回目に振り向きかけ、3回目にはすでに振り向き終わった状態から始まることは、方向を持った変化であり、無作為な枝の選択では説明しにくい。ただし観測は3回で、確定はできない。
持ち越しは、テープ側か観測者側か
相馬氏の読みに沿う側:テープ側に溜まる
INFERENCE状態はテープの側に溜まっていると読む。再生された回数が積み上がり、あるところから変化が現れ始めたという読みである。先に再生した2名のときは何も起きず、そのあとの再生で風船と女性が動いたことは、この読みを相馬氏側に有利にする材料であり、反復が記録そのものを変質させていくという相馬氏の読みと整合する。
本記録の読みに沿う側:観測者側の条件
INFERENCE状態は観測者の側の条件によって決まっていると読む。同じテープを巻き戻しても、先に見ていた2名のときには風船も女性も動かなかったことが、この読みを支える。
UNRESOLVED上の二つの読みは、どちらもいまの材料では完全には通らない。テープ側に溜まるのであれば、先の2名の再生でも段階が進んでいるはずだが、2名が巻き戻したときは2回とも何も起きていない。一方、観測者側の条件であるなら、同じ回の中で段階が進んでいくことの説明が要る。
通常の説明も残る
UNRESOLVED先に見ていた2名が、巻き戻しを装って一本の連続映像を流していた可能性は排除できない。ただし作中には種明かしもドッキリの宣言もなく、会話の場面もないまま撮影が終わる。悪戯だとすると、その終わり方の意味が説明されない。
UNRESOLVED作品の中で、条件を一つだけ変えた再生は一度も行われていない。どの再生も複数の点が同時に違っているため、何が結果を分けたのかを作品から特定することはできない。
情報が届く順番
先に見たものが、後から見るものの意味を変えることがあります。公開前の情報が先に現れるのか、記録の内部に順序が残っているのか。ここは映像内の順番を取らなければ判断できません。
順序の違いが読解を変えることを、特定の場面を描かずに整理します。
情報が届く順番事実図としての構成案。タイムコードは未収録です。
The Portraitでは、似顔絵が描かれた後に行方不明者サイトが更新され、家族が一致を知ります。描き手は本人にも会わず、サイトも見ていませんが、なぜ描いたかは語られません。前後関係は確認できても、原因は確定しません。
The PortraitThe Portrait
この作品の記述の出典は、筆者による視聴確認です。タイムコードは未設定です。
FACT似顔絵はスケッチブックに何枚も描かれている。
FACT描かれた時点で、その人物は公に特定されていなかった。終盤で前後関係が明示される。
FACT描き手がその人物に会ったことがないことを、家族が明確に証言する。
FACT公に特定されたのは、行方不明者の公表サイトが更新され、それを家族が見て知ったことによる。
FACT描き手は元警察官で、身元不明の死者の似顔絵を描き続けていた。
FACT描き手本人が動機を語る場面はない。認知症のため発話の場面がない。
INFERENCE描かれた人物は、過去の職務で実際に描いた人物か架空の人物だろう、というのが当初の家族の受け止めである。これは作中の家族の推測である。
UNRESOLVED描き手がなぜその人物を描いたのかは、作中で語られない。
House of mirrorsHouse of mirrors
この作品の記述の出典は、筆者による視聴確認です。タイムコードは未設定です。
FACT部屋の中の文字が鏡文字になっており、鏡に映すと通常どおり読める。
FACTこの点は作中で明示されず、登場人物も気づかない。
FACT鏡に映るのは基本的に当事者のみだが、まれに無関係の人物が映り込む。
FACT撮影者は鏡の中の人物に気づかず、反応もしない。
UNRESOLVED撮影している側と鏡の中の側の、どちらが本来の状態かは作中で示されない。
UNRESOLVED依頼した住人がどうなったかは、作中で言及されない。
UNRESOLVEDセーラー服の少女が他作品の人物と同一かは確認できない。
章の終わりに、媒体・観測・順序から「接続」という語へ移るための最小限の定義を置きます。
接続の三段階用語の定義図。三段階は評価ではなく、観測の強さを分けるための仮置きです。
House of mirrorsでは、こちら側の鏡文字が鏡の中で正しく読め、まれに当事者ではない人物も映ります。像が部分的に越えてくるように見えても、どちらが本来の側か、映り込む人物が誰かは未解決です。
章末の要約
Cursed Videoで残った「同じ人が複数回再生したらどうなるか」という問いに、MINDSEEKERは再現実験の失敗で答えます。同じ位置を再生し直しても覚えた内容が再現されないため、同じ媒体なのに結果が違うという観察は一段強くなります。
The Portraitでは、描画と公的な特定の順番は確認できますが、描き手の動機は確認できません。情報が先に現れたように見えることと、その経路を説明できることは別です。
House of mirrorsでは、こちら側の文字が裏返り、鏡の中で正しく読めます。媒体が壊れたのではなく、複数の状態への入口になっている可能性を加えても、撮影している側と鏡の中の側のどちらが本来の状態かは決められません。
それでも、持ち越しがテープ側に溜まるのか、観測者側の条件によって決まるのかは解消しません。どちらに溜まっているのか、どちらが本来の側なのかという問いを残したまま、次章へ進みます。